(3月特集)ムーンナイト・ダイバー (文春文庫)/天童荒太(著)

2020/03/03 (Tue)

誰もが立ちすくんだあの日から9年。
いまだから読みたい本――3.11後の日本

震災から四年半が経った地で、深夜に海に潜り、被災者たちの遺留品を回収するダイバーがいた。男の名前は瀬奈舟作。金品が目当てではなく、大切な家族や恋人を亡くした人々のために、ボランティアに近い形で行なっている。ただし、無用なトラブルを避けるため、ダイバーと遺族が直接連絡を取り合うことは禁じられていた。
ある日、舟作の前に透子という美しい女性が現れる。彼女も遺族の一人だったが、なぜか亡くなった自分の夫の遺品を探さないでほしい、と言う――。
フクシマの原発避難区域圏内にも入って取材し書かれた、著者の新たな代表作となる鎮魂の書。サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)についても強烈に考えさせられる問題作です。巻末に新たな書下ろしエッセイ「失われた命への誠実な祈り」を収録。

全てを海の底に流された地で、深夜に仲間達と遺族の遺品を探すーー
震災から四年半が経った地で深夜に海に潜り、被災者たちの遺留品を回収する瀬奈舟作。大切な家族や恋人を亡くした人々を募っての会員制による活動だったが、彼自身も津波で両親と兄を失っていた。ある日、遺族の一人である女性が現れ、なぜか亡くした夫の指輪を探さないでほしいと言う―。著者の新たな代表作となる鎮魂の書。
津波に飲まれた遺品を探すために舟作は暗い海に潜水する。舟作がトラックで地震の被害を受けた町を走る冒頭のシーン、そして海中に引き込まれた建物と遺留物。災害の爪痕が精緻に描写されており、実際に何度も東北へ足を運んだという著者の熱意が感じられた。私はその場で被災した人間では無いため、もし生き残ったとして身内の行方も判らず遺品も無いとすればどのように折り合いをつければいいのかと考えさせられた。前を向くことと振り返ること、その狭間にある罪悪感も捉えつつ生と死に対して真摯に向き合った作品だと思う。
生きててよかった。それがすべてだけど、簡単なことではない。失ったもの、残ったものに向き合わないといけない。過去のことであっても、それは日常である。とにかく舟作さんが魅力的。震災で海に飲まれた町から、ダイビングで遺留品を持ち帰る。依頼人の珠井さんたちのグループの思いと舟作の思いは時には違ったものになる。メンバーの一人である女性が彼に近ずき「遺留品の指輪を探さないでほしい」と依頼する。指輪が見つかれば大切な人の死を否応なく受け入れなければならないから。東北ではそんな思いの人がたくさんいたのだろう。最後に彼がとった方法は心安らぐものだった。天童さんの作品の中では読後感が良かった。
天童荒太[テンドウ・アラタ]…小説家・推理作家
1960年5月8日、愛媛県生まれ。1986年に「白の家族」で第13回野性時代新人文学賞を受賞。1993年には『孤独の歌声』が第6回日本推理サスペンス大賞優秀作となる。1996年に『家族狩り』で第9回山本周五郎賞を受賞。2000年にベストセラーとなった『永遠の仔』で第53回日本推理作家協会賞を受賞。09年『悼む人』で第140回直木賞を受賞。2013年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞。代表作
『家族狩り』
『永遠の仔』
『悼む人』主な受賞歴
野性時代新人文学賞(1986年)
日本推理サスペンス大賞優秀作(1994年)
山本周五郎賞(1995年)
日本推理作家協会賞(2000年)
直木三十五賞(2009年)
毎日出版文化賞(2013年)デビュー作
『白の家族』
┣『歓喜の仔』特設ウェブサイト - 幻冬舎
┣天童荒太さんの見た光。 - ほぼ日刊イトイ新聞
┣栗田教行 - allcinema
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