(3月特集)紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている: 再生・日本製紙石巻工場 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)/佐々涼子(著)

2020/03/08 (Sun)

誰もが立ちすくんだあの日から9年。
いまだから読みたい本――3.11後の日本

「この工場が死んだら、日本の出版は終わる……」 絶望的状況から、奇跡の復興を果たした職人たちの知られざる闘い 「8号(出版用紙を製造する巨大マシン)が止まるときは、この国の出版が倒れる時です」 ――2011年3月11日、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場は津波に呑みこまれ、完全に機能停止した。 製紙工場には「何があっても絶対に紙を供給し続ける」という出版社との約束がある。 しかし状況は、従業員の誰もが「工場は死んだ」と口にするほど絶望的だった。 にもかかわらず、工場長は半年での復興を宣言。 その日から、従業員たちの闘いが始まった。 食料を入手するのも容易ではなく、電気もガスも水道も復旧していない状態での作業は、困難を極めた。 東京の本社営業部と石巻工場の間の意見の対立さえ生まれた。 だが、従業員はみな、工場のため、石巻のため、そして、出版社と本を待つ読者のために力を尽くした。 震災の絶望から、工場の復興までを徹底取材した傑作ノンフィクション。

絶望的状況から、奇跡の復興を果たした職人たちの知られざる闘い
2011年3月11日、東日本大震災が発生。大津波が日本製紙石巻工場を襲い、日本の出版業界に危機が訪れる。この本は、不可能と思われた日本製紙の工場再建を、社員と会社が全力をかけて実現させた経緯を記録するノンフィクション。
2011年、日本製紙石巻工場に津波が押し寄せた。その地震、津波からの復興を半年という短期間で成し遂げた道のりが書かれた本書。ご苦労が偲ばれて、本当に頭の下がる思いがしました。紙は東北で造られている、本を作る側にいる著者でさえ、震災が起こるまでその事実を知らなかったそう。大好きな本は、熟練の技をもった職人さんたちが心血を注いで造った紙によって出来上がっている。その事実をあらためて知ることができた。今、手元に本があって、ページをめくり、その香りをかぎ、文字を追う楽しみ。感謝を持ってその幸せを噛み締めています。
「トップが、勝つとどれだけ信じるか。勝つと信じる社員がどれぐらいいるか、それが組織だ」というようなくだりがよかった。紙には、書名もサインもないのに自分たちが作った紙だというのがわかるという職人のプライドも知らなかった。感動話というよりも震災の描写などが生々しく、新聞に書けないような状態だったことを浮き彫りにしてくれます。関東大震災と同じように悪いデマが簡単に流れたり、遺体を踏みながら下山したり、バットを持った人たちが自動販売機やレジを壊して回ったり、震災蠅という名前がついた蠅が沸いて出てくるような描写も。ルポライターなので当然なのかもしれませんが、石巻工場の再生話を中心に、美談だけではない、震災の描写にこだわって書いていることに好感が持てました。本もそうですが、今回(2020年3月)のコロナウイルス騒動によるトレパ他買い占め騒動で相当フル稼働されてるのが、この業界ですね。ある意味の風評被害と言う所でしょうか……。
佐々涼子
1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。新宿歌舞伎町で取材を重ね、2011年『たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん』(のちに『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』に改題、ハヤカワ文庫)を上梓。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に刊行された本書は、雑誌ダ・ヴィンチのBOOK OF THE YEAR(エッセイ・ノンフィクションランキング)、紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする「キノベス! 2015」第1位、第49回書店新風賞特別賞など全8冠を獲得してベストセラーとなった。
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