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(3月特集)献灯使 (講談社文庫)/多和田 葉子(著)

kage

2020/03/11 (Wed)

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誰もが立ちすくんだあの日から9年。

いまだから読みたい本――3.11後の日本

アイコンりす今回の書籍案内人・・・・Arika

全米図書賞(翻訳文学部門)受賞!
 献灯使 (講談社文庫)/多和田 葉子(著)



大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。無名は「献灯使」として日本から旅立つ運命に。大きな反響を呼んだ表題作のほか、震災後文学の頂点とも言える全5編を収録。


Arikaアイコン(小)1既成の価値観が当然ではなくなった世界
不死なれど不老ではない老人たちが、子どもたちを支える近未来

未来の日本を想像したディストピア小説。東日本震災を思い起こさせる「大災厄」後に鎖国状態になった日本で暮らす曽祖父と孫の日々。老人は死ねなくなり子供は脆弱になっていく。不気味な世界なのにどこかおとぎ話めいているのは、どんどん身体能力が落ちていく孫自身が「人間」とは別の生き物に変わっていくようなその変化を喜んでいるように見えるからなのか。様々なところで現在の社会に対する皮肉と言葉あそびがあふれている。

表題の「献灯使」をはじめ他の短編も、大地震と原発事故で壊滅的になった日本と日本人を冷酷に描いている。日本が鎖国するという設定までは驚かないが、百歳を過ぎた老人が元気だったり、ひ孫が極度に軟弱であったり、普段から常識と思っていることの逆の設定なので、奇怪さが売り物の小説なのかと誤解しそうになる。三幕物の戯曲のような「動物たちのバベル」や、放射能に汚染された日本を脱出する「彼岸」も良い。当たり前だと意識すらしていないことまで、具体的な言葉になっているのを読んでいく過程で、ただの思い込みなんだなと気付いていく。痛烈な皮肉にも読める記述が、なぜか小気味よく感じてしまう。

表題作が一番面白く読み応えがあった。災厄の箱の底にある希望のように思えた。ほかの短編もこの「近未来の日本」を舞台にしたもの中心で、どれも面白かった。過剰な比喩と語呂合わせ言葉遊びは時に「不思議の国のアリス」的な狂的な二重意味の混乱をもたらすが、すぐに、あまりに救いのない現実に沈静化する。ブラックユーモアに満ちていてメモしたい表現があちこちに出てくる。中でも「迷惑は死語」「昔、文明が十分に発達していなかった時代には、役にたつ人間と役にたたない人間という区別があった。君たちはそういう考え方を引き継いではいけないよ」は最高だと思う。日本語ならではの当て字による意味の組み替えや、漢字を分解してみせる言葉遊びなど、小説の筋以外のところでも読みどころが満載で、なかなか前に進まなかった。けれども決して読みにくいわけではなく、ぎゅうぎゅうにつまった密度の濃い作品を味わう感じ。不死なれど不老ではない老人たちが、子どもたちを支える近未来。鎖国により外来語もインターネットもなくなる中、汚染により凋落する東京を尻目に食物時給ができる地域に人々が避難していく姿など。小説だからこそ描ける『そうなるかもしれない近世界』は決してフィクションに留まらない強いメッセージ性があって、現実的な示唆に富んでいると思いました。



多和田 葉子[タワダ・ヨウコ]…小説家、詩人
1960年3月23日東京生まれ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社し、ハンブルク大学修士課程修了。1982年から2006年までハンブルク、2006年よりベルリン在住。1987年、ドイツにて2か国語(日本語・ドイツ語両言語)の詩集を出版してデビュー。1991年、「かかとを失くして」で群像新人文学賞受賞。1993年、「犬婿入り」で芥川賞受賞。1996年、ドイツ語での文学活動に対しシャミッソー文学賞を授与される。2000年、『ヒナギクのお茶の場合』で泉鏡花文学賞を受賞。同年、ドイツの永住権を取得。また、チューリッヒ大学博士課程修了。2011年、『雪の練習生』で野間文芸賞、13年、『雲をつかむ話』で読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞。2018年、本書『献灯使』で全米図書賞(翻訳文学部門)受賞。近著に『百年の散歩』『地球にちりばめられて』がある。

デビュー作
『かかとを失くして』(1991年)



▲独特な作風と言語・文化への鋭く繊細な洞察から生まれる多和田ワールドの魅力が横溢する作品集。
群像新人賞受賞作を含む初期中編3作「かかとを失くして」「三人関係」「文字移植」。

代表作
『犬婿入り』(1993年)
『容疑者の夜行列車』(2002年)
『雪の練習生』(2011年)
『雲をつかむ話』(2012年)
『献灯使』(2014年

主な受賞歴
1991年 第34回群像新人文学賞(『かかとを失くして』)
1993年 第108回芥川龍之介賞(『犬婿入り』)
1996年 シャミッソー文学賞(ドイツ)
2000年 第28回泉鏡花文学賞(『ヒナギクのお茶の場合』)
2002年 第12回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(『球形時間』)
2003年 第14回伊藤整文学賞(『容疑者の夜行列車』)
2003年 第38回谷崎潤一郎賞(『容疑者の夜行列車』)
2005年 ゲーテ・メダル(ドイツ[16])
2009年 第2回早稲田大学坪内逍遙大賞
2011年 第21回紫式部文学賞(『尼僧とキューピッドの弓』)
2011年 第64回野間文芸賞(『雪の練習生』)
2013年 第64回読売文学賞(『雲をつかむ話』)
2013年 芸術選奨文部科学大臣賞(『雲をつかむ話』)
2016年 クライスト賞(ドイツ)
2018年 国際交流基金賞
2018年 全米図書賞翻訳部門(『献灯使』)
2020年 2019年度朝日賞



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