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文盲 アゴタ・クリストフ自伝/アゴタ・クリストフ

kage

2012/05/01 (Tue)

アイコンりす今回のBook案内人・・・・Arika
★作家、アゴタ・クリストフの自伝。祖国ハンガリーを逃れ難民となり、母語ではない「敵語」で書くことを強いられた亡命作家の苦悩と葛藤を描く。彼女の中の失われ行く世界 喪失を経てなおも続く、読み、書くという営み クリストフ独特の怪しき美しさが読む者を魅了する…★・・・今回のBook案内人/Arika


文盲 アゴタ・クリストフ自伝文盲 アゴタ・クリストフ自伝
(2006/02/15)
アゴタ・クリストフ

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家、アゴタ・クリストフの自伝です。

彼女はハンガリーからスイスへと亡命し、生きていくためのフランス語を学びました。

しかし、それは同時に「母国語をじわじわと殺しつつある」ことでもと、それを乗り越えようとするパワーに胸を打たれます。


彼女の中の失われ行く世界 

喪失を経てなおも続く、読み、書くという営み 

クリストフ独特の怪しき美しさが読む者を魅了する。





Arika感想

「わたしは読む。病気のようなものだ。」

冒頭から彼女、アゴタ・クリストフの言語感覚の深みに惹きこまれる。


100ページに満たないこの自伝は、ハンガリー人のフランス語作家アゴタ・クリストフによるものです。

彼女の小説と同様に、叙情や郷愁、時には怒りといった感情を内に秘め、静謐な語調で淡々と自らの生が語られていきます。

クリストフは、1956年にソビエトの侵攻と圧制から逃れ、夫と幼い娘と共にオーストリアを経て、スイスへ亡命しました。

彼女が21歳の時でした。それは、彼女が生を受けた国を永遠に失い、生を持続する上で呼吸と同様に彼女にとって不可欠な行為である「書くこと」を、フランス語という「敵語」で行うことを強いられることでした。「敵語」という一見不穏な響きを持つ言葉を用いる理由は、この自伝のなかで彼女自らが述べています。「この言語(フランス語が)が、わたしのなかの母語(ハンガリー語)をじわじわと殺しつつある」。亡命先のスイスで彼女はフランス語を習得し、フランス語で読むことそして書くことを続けます。工場での労働の後に、子育ての合間に。そして、『悪童日記』(原題”Le Grand Cahier”の日本語訳として適切とは思えませんが)、『ふたりの証拠』、『第三の嘘』が賛嘆の的となり、重要な現代作家としての揺ぎない地位を確立します。

しかし、彼女は果たして幸せだったのでしょうか? 

ハンガリーが悲劇に見舞われず、母国語で、もしかしたらフランス語の時とは異なった文体で書いていたとしたら? 

このような仮定の話は無意味かもしれません。

しかし、彼女がハンガリーで寄宿舎生活を送っていた時に書いた、静かで、叙情に満たされた美しい詩を読むと、どうしてもそのようなことをつい考えてしまうのです。

昨日は、すべてがもっと美しかった、

木々の間に音楽

ぼくの髪に風

そして、きみが伸ばした手には

太陽。



言葉が世界を規定するとしたら、著者が体験したのは本来彼女のものであったひとつの世界が選ぶ余地なく与えられたもうひとつの世界によって少しずつ追いやられ、失われてゆく過程だったのだろうと思う。

そう考えると、『悪童日記』の他の何にも似ていない静謐なグロテスクさとか、感情から遠ざかろうとして逆にその本質を露呈するような感じとかの精神的な背景を少し理解できた気がする。

あれは失われゆく世界に属する事柄をそれを追いやった世界の言葉で描いた物語なのだ。

自伝としてはかなり短い部類に入ると思うが、それだけに彼女の魂の核を垣間見た気になった。

この「文盲」はわずか90頁程度の小品ですが、クリストフ独特の作風を十分伝える、まさにあの「体験」を与えてくれる書です。

「わたしは読む。病気のようなものだ。」
 
この書き出しが、過去・現在・未来あらゆる時間を現在形で綴るクリストフのあの世界に私をあっという間にさらっていきます。

ハンガリーの寒村で暮らす少女時代。幼い娘を連れたスイスへの亡命。言葉の通じない世界で文盲としての生活を強いられる日々。
 
この自伝に、功成り名をとげた人物の達成感や高揚感はありません。

疲労感や徒労感といったものが行間に滲み出るばかり。

この「文盲」には、読むこと、そして書くことの喜びが通奏低音のように間違いなく存在しているのです。

それが読む者の心に確かに響きます。

「訳者あとがき」によれば、齢七十を越したクリストフに新作執筆の意志はもはやないようです。

それが事実だとすれば大変残念でなりません。
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