『居酒屋』『ナナ』/ゾラ

2012/10/14 (Sun)

パリの空気を、本から感じてみよう…No/005
ナナの前にナナなし、ナナの後にナナなし!

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「居酒屋」とはアルコール中毒に蝕まれ悲劇の底へと墜落していく。
人間を表したタイトル。
働き者だった人間がしだいにアルコールに蝕まれ悲劇のどん底へ突き落とされる。
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名作『居酒屋』の女主人公の娘としてパリの労働者街に生れたナナ。
生れながらの美貌に、成長するにしたがって豊満な肉体を加えた彼女は、全裸に近い姿で突然ヴァリエテ座の舞台に登場した。
パリ社交界はこの淫蕩な“ヴィナス”の出現に圧倒される。
高級娼婦でもあるナナは、近づく名士たちから巨額の金を巻きあげ、次々とその全生活を破滅させてゆく。
自然主義作家ゾラの最大傑作。
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花の都パリ。 そのパリの下層段級でナナは生まれ育った。
『居酒屋』の主人公、洗濯女ジェルヴェ―ズの子供として、ジェルヴェーズは父親の暴力の中に育ち、愛人に捨てられ、死に物狂いに働いて持った店も夫に飲みつぶされ、極貧のうちに身を売り、アルコール中毒になり、やがて餓死する。
19世紀のパリの風俗、そして当時の労働者階級の暮らしぶりがありのままに描かれている小説です。
発表された当時はかなりバッシングにあったと序文に書かれていましたが、当時のパリの場末がどんなものであったかがよく分かるというだけでも、大きな価値があるのではないかと思います。
気立てもよく真面目で、男運にだけ恵まれない女ジェルベーズ。運命に翻弄される一人の女を通して、人生の光と影を描き出しています。
人間は、楽な方へ楽な方へと流れ、それに慣れたら後戻りはできない。
そんな人間の弱さを描いて見せた、傑作だと思います。
非常に長い話ですが、どうなっていくのか先が気になって、飽きることなく最後まで読み通しました。
読むとかなり暗い気持ちになるのも事実ですが、風俗だけでなく主人公の心情の変化もリアルに描かれた傑作だと思います。
―――― その娘『ナナ』。
この小説の幕開けは、全裸に近い豊満な体と美貌を誇って見せるナナの劇場デビュー。
歌も芸もない官能の塊だけのようなナナを、群衆は女神と讃え、男も女もみんなナナに魅了される。
たちまち高級娼婦と上り詰め、放蕩の限りを尽くし、男たちを次々と、そして女をも破滅に導いていく。
私がゾラを初めて手にしたのは「居酒屋」である。
登場人物たちのだらしなさ、情けなさ、そして救い難さが衝撃的であったため、
新潮文庫より発行されているもう一つの作品であり続編でもある「ナナ」を手に取るのは自然のことに思える。
「居酒屋」とは異なり、本作の舞台と凋落の対象は裕福層に絞られているが、救い難いという点では何ら変わりは無い。
高級娼婦ナナはその美貌と肉体を武器に、パリの男達をことごとく社会的に破綻させていくが、中でもミュファ伯爵のその様が作品の大きな部分を占める。
この伯爵は王宮に出入りする侍従であり、本来誠実で信仰心の強い男であったが、ナナとの出会いによってある意味「開眼」する。
そしてナナに起因する苦悩に苛まれるが、もはやナナ無くして物事を考えられず、ナナに金を惜しまず贅の限りを許し、やがてジワジワと家庭ごと崩壊する。
しかし、描かれていない背景では他の男達も同じ苦悩に陥り破綻していることが充分伺えるのだ。
つまりミュファ伯爵は、そんな男達の代表としてピックアップされ、詳細に描かれたに過ぎない。
(その他の男達の零落ぶりについては終盤に怒涛の如くダイジェストに描かれている)
しかし悪女ではない。ナナには悪気など一切ない。
ナナがナナであるがためにただ無邪気に己を解放することによって、周囲の人間は翻弄され意図せず毒を撒き散らし自滅していった。
その謎を解くべく、それほど男を虜にするナナのような女を一度見てみたい気もするが、正直、出来れば出会いたくはない。

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