私が愛する手塚治虫ワールド[6]・・・どろろ

2013/04/12 (Fri)


![]() | どろろ (第1巻) (Sunday comics) (1974/09) 手塚 治虫 商品詳細を見る |
父の野望のため、魔神に売り渡された百鬼丸。
自分の身体をどろろと共に取り戻す旅は、
生きている価値を見出すことでもあった。
おなじみ手塚漫画の伝奇ロマン。
今回は、『どろろ』をpick up!
伝 奇 の 世 界

妖怪と戦い、未知なる”自分自身を見い出す旅”
手
塚先生がこの漫画のタイトルを『どろろ』にしたのは、どろろの性格が大好きだったと語っています。
どろろは、主人公の百鬼丸にくっついて、ともに旅する子どもで、ラストの方では女の子だと分かるのですが、初めのうちはハチャメチャに元気のいい男の子として暴れまわっています。
もともと手塚先生は、子どもを魅力的に描くことを得意としてるわけですが、怒ったり、すねたり、甘えたりするどろろの心の動きが、目つきや顔の表情だけでなく、力強く握った握りこぶしや、恥ずかしそうに後ろにまわした小さな手先にまで満ち満ちているのです。
手塚先生が漫画を描くスピードはものすごいもののはずだから、こんなふうにはっとさせるほどに生き生きと描くことが出来るのは、手塚先生の頭に中でどろろが生きていて、紙の上でそいつが動いてる、そんな感じだったんだと思うんです。
つまり、どろろ自体が手塚先生の頭の中にいる天才子役であり、この物語の大切な役どころを演じているのです。
主人公の百鬼丸は生まれる前、自分の身体の48か所を奪われてしまいます。これは、百鬼丸の父親が権力を握りたいために48匹の妖怪に、生まれてくる子ども、つまり百鬼丸の身体を捧げたからなのですが、これだけマイナス部分を背負って登場する主人公は、手塚先生の作品にはそれまでなかったんじゃないでしょうか。自身の身体を取り戻すだけのために妖怪を倒す百鬼丸は、決して正義の味方のヒーローとしては生み出されてはいません。
物語にどろろがいっさい登場しなかったら、自分の身体を取り戻すためにただひたすら旅を続ける、そんな単純で暗い漫画になっています。それはただ普通の劇画漫画でしかありません。この魅力的などろろが活躍することによって話は明るく複雑なものにしていってるし、どろろに対して優しい気持ちになっていく百鬼丸の、心の動き、魅力的な人間としての深みをあらわすころが可能になったのではないでしょうか。
私の酷だと、この漫画は、劇画ブーム、妖怪物ブームによって、今までの単純な少年漫画が押されはじめた頃に描かれた作品だったと思います。そこでチャレンジ精神旺盛な手塚先生は、妖怪物に挑戦したのですが、少年漫画に出てくるような主人公どろろをひっぱってきて物語を魅力的にしているだけでなく、自身の身体を取り戻す、つまり人間性を取り戻すという重要なテーマを盛り込んでいます。
いつも漫画の根底には、手塚先生自身の何かが描かれていますよね。だから漫画を読んでいると、この時期に手塚先生が何を考えていたのかが、読者である私たちにも伝わってくるような気がします。
あまりにも不幸せな境遇で生まれてきた百鬼丸のその心の中の悲しみや苦しみは、はかり知れないものがあります。親に捨てられた百鬼丸は、医者に拾われて義手や義足、義眼などをあてがわれる。そして妖怪を倒すごとに、苦痛とともに身体のひとつが戻ってくる。たとえどんな身であっても生きていきたい、百鬼丸のその願いは、手塚先生のひとつのメッセージ。
身体の全てを取り戻し、一人前の人間になった後の生きがいを問い質す、謎の盲目の法師のシーンがある。
謎の盲目の法師「なあ、百鬼丸よ。 人間のしあわせちゅうのは『生きがい』ってこと…
おめえが妖怪を倒す。手が生え、足が生え、目があいて、一人前の人間になれるときがくる・・・・
それから後、おめえさんはどうする? 何を目標に暮らす?」
百鬼丸「うるせえ!!………………………………………………それは、そのとき考えら!!」
やがて百鬼丸のこころには、「どろろのため・・・・」という思いが・・・・。
しかし、最終回、どろろのもとを去る百鬼丸。
物語は結末を見ずに一旦幕を閉じる。
数々の問いかけを読者にしたまま・・・・。
きっとこの頃の手塚先生にとっては、自分を取り戻すこと、とらえ直すこと、そして人間の生きがいとは何かを問い直すことが、手塚先生自身の大きなテーマだったんじゃないのかなと私は推測します。
そして、もしそんな深刻になってしまいそうな心だったとしたら、どろろの明るさ、奔放さがやっぱり好きで好きでしかたがなかったはずだろうと思います。

手塚漫画のツボ
タイトルがなぜ『どろろ』なの?
この物語の主人公は妖怪に身体を奪われた百鬼丸。
そして彼についてまわるどろろ。
どろろという名は、小さい子が「ドロボウ」と言えずに『ドロロウ』と言ったことがヒントになっている。
「百鬼丸とどろろ」というタイトルが長すぎたので、手塚先生自身が魅かれている”どろろ”をタイトルに選んだ。
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