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(第150回芥川賞作品特集!①)穴/小山田浩子 (著)

kage

2014/01/23 (Thu)

Arika芥川賞

Arikaメダル1第150回芥川賞受賞

穴/小山田浩子 (著)

穴
(2014/01/24)
小山田 浩子

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奇妙な獣のあとを追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちた――。

仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。

見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。

夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい。平凡な日常の中にときおり顔を覗かせる異界。

『工場』で新潮新人賞・織田作之助賞をダブル受賞した著者による待望の第二作品集。

芥川賞を受賞した表題作ほか二篇を収録。




Arika感想

主人公の名前は松浦あさひ、夫の名前は宗明、夫の転勤先が、夫の実家の近くである事が判り、この夫婦は夫の実家の隣の家(うまい具合に空き家になっていました)で暮らすことになります。

この作品はその引っ越し先で松浦あさひが体験する奇妙な体験が軸となっています。

異界を象徴するのは、極めて饒舌な義兄、地面にあいた人ひとりがすっぽり入れる穴、それに正体不明の黒い獣、です。

この三点セットから、作者はタイトルに「穴」を選んだらしいのです。

作中世界の時間設定がちょうどお盆をは挟んでいることから、死者が帰ってくる作品として私は読みました。

夫からも姑からも、一言も夫に兄がいたことなど聞かされたことのなかった妻が、引っ越し後、偶然その存在を近所の人の話から知り、それだけでなくその義兄の姿を見かけ、やりとりもします。

全くテイストは違うのですが、ヘンリー・ジェイムス『ねじの回転』を思い出しました。

義兄は幽霊とも解釈できるし、物語としては無理筋に近いものの、実は本当に義兄はこの世に存在しているとも解釈できるし、あるいは第三の人物だった可能性もあるし、というこの「いるのかいないのかどっちなんだよ!」の宙ぶらりん状態にサスペンスがあって、この宙ぶらりんさが逆に特赦を先へ先へと物語の続きに読み進めてしまうワクワクとイライラ感につなげている。ただサスペンスなだけでなくて、またこの義兄の存在が、いかにも嘘くさくてファンタジックで実に面白くてよい(褒め言葉)と思いました。

作品タイトルや、作中にも言及があることからわかるように、この著者は『不思議の国のアリス』を一つのベースにしている。

特にそれを感じさせるのは、P.42の義兄とおぼしき人の発言。

「要はね、アリスが追いかけた兎はただの兎じゃなくて結局女王の執事みたいな、そういう使用人だったでしょう。ね。しかし、穴に落ちるまでのアリスが見ていたのは実はタダの兎なんだな。ごく普通のね。イギリスのちょっとした田舎にはきっとそういうのがぴょんぴょこいたわけです。ね。それを追いかけている段階でアリスはただの野蛮でおてんばな女の子なわけだが、しかし、穴に落ちてからはそうじゃない。いわば兎は一人格を持った労働者だ。いや中間管理職かな。割合に偉そうな格好しているじゃない? 挿絵でもさ。つまりただのオテンバが妄想になって、それこそが大冒険だ。僕ぁ穴に落ちた後の兎ですよ。(p.42)」

このいかにも作り物チックなはなし言葉は、このファンタジーテイストの幽霊話にはもってこいだ!!

この義兄にかぎらず、出てくる人物の一人ひとりが容易に想像できる造形で、うまいなと何度も思わされた。

「珍妙な舌出し犬のスリッパの姑(p.33)」が個人的にはつぼで、きっとモデルになった人が身近にいるのかなと思わされるほどのリアルさがあった。

最後の一文、「家に帰り、試しに制服を着て鏡の前に立って見ると、私の顔は既にどこか姑に似ていた」という重しを置くことに拠り、この主人公の将来が、夫の実家の人々とうまくやっていけるであろう、という希望を謳っている。
 
個人的な印象ですが、作風は多和田葉子や笙野頼子、川上弘美にかなり近いものがあります。

特に川上弘美の初期作品である「神様」や「蛇を踏む」などが好きな方には、好意的に受け入れられる筈です。

リアルに裏打ちされた幻想を描くのはとても難しい。

この作品は、それを自然に書く筆力と、嫁と姑、自分が知らない小さな社会に入っていく違和感を普遍的に描いており、その普遍的な違和感は老若を問わず持ち合わせているものだろうと思います。

ともあれ、全体を通して、いつまでも読んでいたい、残りページが少なくなっていくのが惜しまれる、作品世界がきちっと造形されている丁寧な佳作でしたので、これが第150回芥川賞受賞したのは納得です。






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