気になる作家の魅力*10(幻の童話作家・大海 赫)

2014/07/26 (Sat)
2014年07月26日号
2014年7月「怖オモロイ絵本&児童書」BOOK特集第3弾!企画。
担当:風うろこ

幻の童話作家『大海 赫』さん
小学生の時に読んで衝撃を受けた「幻の童話作家」と言われた大海 赫の絵本。
しばらく絶版されていましたが、一部の本は復刊されたので今でも購入可能です。
ちょっぴり不気味でグラフィカルなイラストに、想定外の結末が生む、シュールな読後感。
一度読んだら忘れられない"トラウマ童話作家"とも呼ばれる、大海赫(おおうみ・あかし)さんの作品に注目!
容赦なく襲いかかる鉛筆。
![]() | メキメキえんぴつ (fukkan.com) (2005/01/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
知らない女の人から売りつけられた「メキメキ成績が良くなる鉛筆」。まったく勉強せず、鉛筆をかじり、芯も尖らせようとしない主人公に、たびたび警告を発するも無視された鉛筆は、恐怖の報復をしかけてくる。 単なる鉛筆に襲われる話ではなく、誰だって思い巡らす「楽して頭が良くなりたい」という願望、けど努力無しではあり得ないんだという厳しい現実(笑)。 楽して頭が良くなりたいと思った事がある人程怖くなる作品なのでは無いです?(笑) 。勉強しないと容赦なく襲いかかる鉛筆や主人公の「ぼく」の人格が豹変する結末が衝撃的。点画で陰影をつけたイラストが不気味で忘れられない。
瓶が人の心を持ったら・・・・。
![]() | あくまびんニココーラ (fukkan.com) (2006/02/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
ナナは瓶をコレクションするのが趣味の女の子。彼女が集めた不思議な瓶たちは、笑ったり、「自分は瓶じゃなくて人間だった」「瓶はいつか人間になれるんだ」と言ったり。そして、悪魔が閉じ込められた瓶が・・・。人間が瓶になる描写がこわい。特に首がにゅーっと伸びるところが怖い。瓶はどうして人間になりたいんだろう。 元は人間だったから? 瓶はいつか割れてしまうから? 大切な人を守るための手や足がないから?
盲目の少年の7時間の恋。
![]() | ビビを見た! (fukkan.com) (2004/01/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
盲目の少年・ホタルに「7時間だけ見えるようにしてやろう」という声が聞こえてくる。だが、ホタルの目が見えるようになった途端、世界中の人たちの目が見えなくなる。そしてホタルはビビという不思議な緑色の少女と出会う。最初の手書き文字を読んだ瞬間に物語に引き込まれてしまう。理由がわからないままに進んでいく物語は、理解できないものに恐怖を抱く人間の心理をよくついていると思う。なんで目が見える? どうして敵がやってくる? 疑問符まで浮かんでくれば、もうこの物語が頭から離れない。確かに恐ろしい場面も多いが、個人的には、これは美しいお話だと思った。目が見えている間にやりたいことはたくさんある。でもビビを見ていたい。目に焼きついたビビを永遠に思い浮かべる。耽美的。大海さんのあとがきを読んで思う、私たちは何を見ているのだろうか。本当に「見えて」いるのかという問いを突きつける一冊である。
怒ったブタたちが世界を支配する!
![]() | せかいのブタばんざい! (fukkan.com) (2010/11/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
ミリのペットのブタが裁判にかけられて食べられてしまった。いつもおとなしいブタたちも今度ばかりは怒って、裁判官を裁判にかけて食べるという。ブタが支配する世界はたいへんなことに。 101号というネーミングや、「天使がかりにブタになり、ペットになってくれた」という言い回しが光る。いつもながら挿し絵が秀逸。そしてブタの名前がすごい。あまりの急展開に驚きつつも大海さんの作品にしては平和な終わり方で安心した。 表紙もエンブレムみたいでいいなあ。
異次元(ドコカの国)へと、トリップしたい人にオススメ。ただし、きちんと帰ってきて下さいね、、
![]() | ドコカの国にようこそ! (fukkan.com) (2004/03/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
ふとっちょでおねしょが治らないフトシが不思議な手紙の指示に従い、おねしょを治すため「ドコカの国」へ向かう。これは果たして、フトシくんをドコへ連れて行きたかったお話なのだろうか。どこでもない、ここでもない、でもドコか。普通、試練を乗り越えて大団円的な展開を期待するし、予想もするのだけど、もちろん、そんなことを許さない大海クオリティ。ある意味救いが無い話、でも、それはそれで、救いがあるとも言えるのか…。難しいなあ。 いつもながら独特のタッチが怖すぎる。トラウマ本として名高いのも納得の鬱完成度。 ちなみに作品の舞台となるニジノ市は「ビビ」に登場した町。
みんないろいろとモヤモヤが溜まってるのね…。
![]() | ベンケーさんのおかしな発明 (fukkan.com) (2007/07/25) 大海 赫 商品詳細を見る |
小学3年生の男の子・ウシワカはおかあさんと二人暮らし。その隣に引っ越してきた大男が発明に凝り始める。ウシワカは、勉強も好きではないし、運動も決して得意ではない、ちょつとひ弱な小学生。となりに住むベンケーさんが、そんなウシワカのためにいろいろな発明をして助けようとする。だが、室内でひみつで練習をしてから友だちの前で試すように言っても、はやくみんなの前で成果を見せて自慢したいウシワカはベンケーさんとのやくそくをあまり守りません。そして、失敗をくりかえしてはまたベンケーに頼み込むウシワカです。
ベンケーさん=ドラえもん、ウシワカ=のび太くん、ゴキゲン=ジャイアンって所でしょうか。ウシワカが困ってベンケーさんに泣きつき、ベンケーさんが発明品でウシワカを助ける。と考えれば判り易い構図の日常SF。出てくる発明品はさかだち歩き練習マシーン、においガン、とおぼえマイク、ノミのブーツ、冬眠用カプセル、ドリーム・コントロール、そしてベンケーロボット1号です。しかし著者が著者だけに一筋縄でいく訳もない。ドラえもんのような人の良さも、のび太くんの反省も牧歌的なエピソードもない。しかし、引きこもりを採り上げた先見性は素晴らしく、何はともあれ小学生向け童話という存在の常識的な枠組みを破壊する迷作のひとつであることは間違いない。 大海さんの独創的な怖い挿絵も冴え渡っている。いろんな色が点々と使われていて目をひく。
自作品に満足した事がないと言う著者が「ガイコだけは快心の作」と言う理由がわかる作品
![]() | 童話ガイコ (2004/06/10) 大海 赫 商品詳細を見る |
ガイコツだけが住むカラン島に住む女の子・ガイコの物語。他の大海作品と比べると、表面的な印象は大分明るいため、何も考えずに読むと「大海さんっぽくない作品」と感じるかもしれません。しかし、テーマは大海作品の中では最も重いため、作品中の全てのメッセージをココロに突き刺さる言葉で受け取ろうとすると、心がゆさぶられて眠れなくなる程です。なんせ、死後の象徴である「ガイコツ」の、「死」がテーマですから…。作品中、作者の大海さんと思われるガイコツも登場します。この作品の主人公・ガイコちゃんはおかしいと感じたことを指弾し、また糾弾されます。どちらの主張にもそれなりの理と分があるから、どちらを正しいと受けとるまでには読者が煎じ詰めていかなくてはなりません。差別や宗教。戦争と破戒。互いに理解し合えば歩み寄れるかもしれないという希望と、所詮は水と油で相容れぬという絶望。陰と陽、そのどちらかに片寄ることなく分け隔てない筆致でガイコちゃんに、ひいては読者に、もしかしたら作者自身にも、正解のない問答が次々と供されます。「かみさまがへんじしてくれた」と、ガイコは聞こえた。その意味を私たちは深く考えてゆかなければならないと思います。お話として、笑っちゃうところも多いんだけど、でも根は生と死など普遍性の強い事象がテーマですから、誰彼なくある心のささくれに目を向けてみるよう穏やかに差し向けてくれる一冊です。
椅子に座る椎の木、しゃべるネズミ、美しい足、歩く椅子、どれも怪しげ…。
![]() | クロイヌ家具店 (fukkan.com) (2012/04/01) 大海 赫 商品詳細を見る |
主人公の男の子は、町にある「クロイヌ家具店」に新しいいすを買いに行った。しかし、そこで売られている椅子には怪しい秘密があった…。座ったらお尻が離れなくなる椅子とか、支えの四本の足が小男の彫り物になっている椅子とか…。 いやぁ「人間家具」ってフェチズムのなかでも、けっこう特殊なものだと思うのですが、それを堂々、書籍デビュー作の児童向けの本でやってしまうところが大胆。デビュー作から挿絵にブレなし。それにしても「チムチェ氏」は徹頭徹尾、無力だ。だが、そこが良い。 なんかもうすごい面白い!椅子が怖いなんて思ったのは初めてです。夢で見たら間違いなく悪夢に分類した上でそっとしておきますが、なぜかもう一度覗いてみたくなる世界があります。版画の挿絵の黒さが、不気味さを強調。お話の中で怪しいものばかり登場して混迷。ところどころにある、少しコミカルな椅子の挿絵はむしろ狂気。なんだ?なんだ?何だったんだ??と思っている間に読了です。合理的に説明できる代物なんてクロイヌ家具店にはない。何かの比喩なのか? いや、変わった椅子があるだけだ・・・只々、想像が膨らむ。
「クロイヌ家具店」の続編。
![]() | チミモーリョーの町 (2007/10/10) 大海 赫 商品詳細を見る |
美しい虹の町、ニジノ市に黒い虹がかかる時、奇妙なチミモーリョーがあらわれる。この町を救うため、ナナホシ・モエルが立ち上がった。 「クロイヌ家具店」の続編。高校生になった「クロイヌ家具店」の主人公・ナナホシ・モエル君が活躍するファンタジー。 不気味で、不思議な、怪異の世界。 主人公と、彼の住む街は同一であるが世界観はむしろ著者の別作品『ビビを見た!』に近い。前著はまだオブラートに包んであった闇の(一皮剥いた真実の)世界の深淵が、本巻では全面に躍り出ています。ますます子供向きとは思えないモダン・ホラーが広がる。 大海作品の怖さ(トラウマ本度の高さ)は、人が死んだり、悪魔のようなものが出てくるからではなくて「不条理」である。
大海 赫(おおうみ あかし)
1931年1月12日(男性)東京都港区新橋生まれ。
児童文学作家。イラストレーターとして挿絵も兼任。
食肉加工業者の父と異なる仕事につきたいと考え、将来の夢が小学生の時は漫画家だったが、16歳の時に作家を目指す。早稲田大学仏文科でブレーズ・パスカル、大学院ではアンリ・ベルクソンに傾倒する。
卒業後は就職したくなく、神奈川県横浜の下宿先の大家がたまたま書道塾を兼業しており、ふとしたはずみでここを利用して学習塾を営むことになった。教え子たちのリクエストがきっかけで童話を書く事になり、日本童話会で「童話」誌に1966年「くいのこしの話」を発表。次作「あなたのエラサはなんポッチ?」が小学館から評価され、童話執筆に没頭する。当時早大童話会を中心に、斬新な人気作家を多数輩出していた坪田譲治門下は「子供にこびた作品のようで、好きではなかった」と語る。
マイナーな作風で揮作のため「幻の童話作家」と呼ばれ、「賞には縁がない」と語っていたが、2005年に日本児童文芸家協会より児童文化功労賞を受賞。
東京都府中市是政在住後、2008年より茨城県鉾田市に転居。
人間心理のダークサイドをえぐる作品が多く、オリジナルの紙芝居制作も手がける。
ブログ「週刊 大海赫童話」(2011年11月30日で更新は終了)で観ることができる。
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この記事へのコメント

Re: 大海さんへ
もちろん、応援いたしております。
「勇士タロー物語」が出版されたら読んでみたいです。
Posted at 04:27:07 2015/01/27 by Uroko×Arika×Usataku
この記事へのコメント

僕は心から願っています。僕の最後の作品「勇士タロー物語」が、めでたく出版されることを。応援して下さい。
僕をご支援くださって、心の底から感謝しています。
有難うございます!!!!!!!!!!!!!!!!
Posted at 11:55:59 2015/01/23 by 大海
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