FC2ブログ
2019 11 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. »  2020 01

(第153回芥川賞受賞作品特集!③)ΜとΣ/内村薫風(著)

kage

2015/07/22 (Wed)

芥川賞153


芥川龍之介の名を記念して、直木賞と同時に昭和10年に制定された。

芥川賞…”純文学”を対象とした作品。

各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)に発表された純文学短編作品中最も優秀なるものに呈する賞。


■芥川賞選考委員
小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美(敬称略)



第153回芥川賞候補作
 ΜとΣ(新潮3月号)/内村薫風(著)

新潮 2015年 03 月号 [雑誌]/新潮社

¥980
Amazon.co.jp

----------------------------------------------------------------------------------------
●内容紹介
----------------------------------------------------------------------------------------

南アフリカ共和国南西部、スヴァルト准尉はいつも通りの通勤ルートを車で走らせ、やってきた。

朝五時、ケープタウンから北東に五十キロ離れたパールの町はまだ目覚めた直後、昇り始めた陽が草むらを白い息で照らし出したころあいで、運転席から見えるドラケンスバーグ(竜の山々)山脈の峰々も、眠ったまま微動だにしない竜の背中に見える。

道が空いているのはいつも通り、駐車場のいつもと同じ場所、刑務所職員用エリアの隅に車を止めた。


■□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

南アフリカのアパルトヘイト撤廃前夜からネルソン・マンデラ解放まで、

現代の東京のブラック企業に勤める内村が、

時空を超えて「ドラクエⅣ」「マンデラ」「マイクタイソン」を

クロスカッティングしていく繋げていく作品。


Arikaアイコン(小)1潮3月号の目次にはこう書かれている。

『南アフリカの歴史的瞬間と日本橋のサラリーマンの生。素粒子と神経伝達物質。時空を大胆に超え、世界を共振させる新しい想像力!』

タイトルは、ネルソン・マンデラのMと、雑多の話題の集合のΣ(シグマ)の意味。数学でΣはその右に書いたものの加算を表すらしい。が、およそ純文学ではご縁がないであろうシグマに何が隠されてるのだろうかと不安になりつつ私は読んでみた。

冒頭 「南アフリカ共和国南西部」で始まり、すぐに馬喰横山のブラック企業へ話が飛ぶ。ブラック企業で生き地獄のように酷使されるサラリーマンが、小学生の頃に遭ったカツアゲ事件。1990年の同日、南アフリカではネルソンマンデラが釈放され、東京ドームではマイクタイソンがダグラスに歴史的KO負けを喫していた。共時性を持つ3つの出来事が、空間を超えたマイクのパンチを通じて繋がるそんなストーリー。マンデラ釈放前、アパルトヘイトによる差別が横行する南アフリカ、日本のブラック企業で働く内村の話が時に明確に、時に曖昧な感じで記される。どちらも「虐げられる人々」という意味ではリンクしているということなのだろう。

南アパートと東京パートの2つが同時平行し、現在と過去がからんでくる構図 。現実と妄想(思い出/過去?)が入り交じる構成。「無意識」が他人に支配されるという、SFチックな要素。「ドラクエⅣ」と「ネルソン・マンデラ」と「マイクタイソン」というキーワード。
斬新というか実験的というか全く繋がりのない話がある意味繋がらないまま混ざりあっていく過程はブラックコーヒーにドロッとしたミルクを注いだ際に出来るミルク渦のようにとても奇妙で面白く、書き手の力量が伺える(繋がらないまま混じりあうというのはどういうことか、と気になる人は是非買って読んでほしい)作品。

鬱憤と暴力と倫理と共振するような混ざり合うような発想の純文学。

例え方をする文章の作り方が何となく稚拙な気はした。たとえば「眉に塗る唾がないような状態だった」など、少し変わった表現をすると、そこにひっかかりを覚えて、スムーズに読んでいたのが”ん?”と中断される感じ。50ページ程の短い中に、「ドラクエⅣ」「ネルソンマンデラ」「タイソン」、そして東京の出来事を絡めたのはやりすぎだろう。一つ一つの話をもっと掘り下げればもっとすごくいい話であり、もっといい素材であり、それぞれの話は読ませるだけにこのインスタントな使い方は些か勿体ないと思った。もっと膨らませて長編でいつか書き直すか、一つ一つの話として独立させて最後にリンクする短編として、また書いて欲しい。

初めて知った作家だったので、他の作品はどんな感じなのだとうかと興味をそそられてAmazonで検索してみたが、新潮での連載のみで、本は出していない。だからどんな表紙を楽しみに本が出るのを首を長くして待とうと思う。噂だと覆面作家らしいので今回の受賞は逃したが、今後もし受賞した際は覆面を脱ぐのだろうか?そこもちょっと気になっている 。現実と妄想(思い出/過去?)が入り交じるお仕事小説として読めば、なんとなく津村記久子さんに雰囲気が似ている気がするし、ギャグなのか真面目なのか分からないユーモラスな作風は筒井康隆さんを思い出してしまう。暴力や差別などにより不満や怒りの風船が膨らんでいく描写。ブラック企業、人種差別、ネルソンマンデラ、マイクタイソン、ドラクエⅣ。神経伝達物質、無意識の行動。様々な話が絡んで、暗さはあるけど、時折ユーモアも感じるSFチックな作品として楽しめた。特に会社の優しい先輩が自殺し、その日記に、小学生の主人公・内村にカツアゲした中学生が自分だったと告白したクダリは面白いと思った。





内村薫風(うちむら くんぷう)

1969年生まれ。

〈作品〉「パレード」2014年新潮3月号。「2とZ」 14年新潮4月号。

関連記事
スポンサーサイト



コメントフォーム

kage


URL:




Comment:

Password:

Secret:

管理者にだけ表示を許可する

この記事へのトラックバック