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(第153回芥川賞受賞作品特集!②)スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介(著)

kage

2015/07/21 (Tue)

芥川賞153


芥川龍之介の名を記念して、直木賞と同時に昭和10年に制定された。

芥川賞…”純文学”を対象とした作品。

各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)に発表された純文学短編作品中最も優秀なるものに呈する賞。


■芥川賞選考委員
小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美(敬称略)


Arikaメダル1第153回芥川賞受賞

 スクラップ・アンド・ビルド(文學界3月号)/羽田圭介(著)



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●内容紹介
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「早う死にたか」

毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。

日々の筋トレ、転職活動。

肉体も生活も再構築中の青年の心の内は、衰えゆく生の隣で次第に変化して……。

閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!




■□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

失業青年と同居する要介護老人との攻防をユーモラスに描く

新しい形のホームドラマ♪


Arikaアイコン(小)1學界3月号の目次にはこう書かれている。

『要介護老人と無職青年との攻防戦! 超高齢化社会の現実を鋭く描く、気鋭の問題作。』

まさにその通りで、無職の若者が、同居する祖父の介護を通して自分を見つめ直す物語である。無職である青年健斗がその代償として要介護の祖父の面倒を見て、母が働いている現実。青年は就活をしながらも母に成り代わって祖父の介護を引き受ける。初めは全くウザイ!と思いつつ介護に当たるのであるがふっと・・・気づく!母は実父であるにも関わらず彼方此方と兄弟間をたらいまわしにされてきたこの父親に相当ハードな対応をしているじゃないか!?と。主人公健斗の家に引き取られてきた認知症で足腰も弱くなり介護が必要な祖父。しかし健斗は祖父が、ひとりで寝起きも出来ており頭もしっかりしていて、ある種の甘えと面倒臭さを持っているのでは?という疑念と一部事実も見てしまう…。健斗は祖父の介護をする日常のなかで『介護は優しさが一番!』、その優しさは老人から役目や身体を動かさせることによってリハビリとなり、人間の体の機能の改善につながる!ことを自分の体を鍛えることを通して知る!

祖父は”安楽に死にたい”と絶えず口走っている。が、それを正しくかなえさせてやるには・・と考えだす。それには・・・ウザイ!として口汚く罵ったり、自分のことは自分でせぃ!とばかりにいじめたのではだめだ!と気づく。優しさは老人に機能を低下させ安楽に死なせる!方向に、まさに優しく導かなければダメだと!いう結論に至る。養護施設などの車椅子による移動や薬漬けの日々は完全に老人を呆けさせる!自発的行動の先手を打ってなんでも優しい猫なで声でやってしまう。これはまさに”正しい呆けさせ方”の流れなんだと!読んでいて、その通り!だなと妙に納得させられた。

最近、純文学、エンタテインメントのジャンルを問わず、社会問題でもある認知症や介護の問題を扱う作品は多い。そのほとんどが介護を受ける側と介護する側との対立を描き、介護する側の大変さを描いたり、認知症で徘徊をしてしまう老人の放浪、行方不明を描いたりと、高齢化社会を浮き彫りにし問題提起をしている。

しかし、本作はいわゆる既定路線とは一線を画し、祖父と孫の対立軸という構図は外している。主人公である健斗は前の仕事を辞め、転職活動をしており、将来に希望を持ち、自身の肉体を鍛えるため筋トレ、ジョギングを欠かさない。片や祖父は「こんなにみんなに迷惑をかけて、じいちゃんはもう死んだ方が良か」と何かにつけて「死んだ方が良か」が語尾に付く。

これだけを見ると明らかに希望と若き肉体を持った孫と迷惑をかける祖父という対立が生まれるはずなのだが、健斗は祖父に懐疑的な嫌悪感を持ちつつも、最新医学で薬漬けにされ、介護システムの発達により「生かされている」祖父に対し、人間としての尊厳・人格を否定され生きながらえている悲哀を感じてしまう。認知症治療や介護の場面に於いて、過剰な手助けは余計に症状を悪化させ寝たきりになりやすいため「自分で出来ることは自分でやる」「敢えて手を貸さない」という自立支援的な行動が取られる。しかしだ、健斗は敢えて祖父に手を貸し祖父を弱らせ「自然で尊厳ある死」を迎えさせようとするのだが・・・・。

この小説の面白さは、一見、祖父と孫の健斗の「対立軸」は厳然と存在している様に見えるが、ニ人は本質的に対立していない。いわば祖父の「じいちゃんはもう死んだ方が良か」「早くお迎えが来てくれんかのう」という言葉に対し、ある意味真摯に祖父の希望に応えようとする孫の健斗がいる。もちろん祖父の言葉を額面通り受け取る健斗ではないのだが「薬漬け」され「生きることを強要?され」ている祖父に対する健斗の揺れ動く価値観と心理を著者・羽田氏は巧みに描写し「人が生きること。死ぬこと」の表裏一体性と「人と人の関係性の本質」とはを新しい形のホームドラマとして読者に投げかけている。

介護を受ける側と介護する側という違いはあれど、いずれは老いとの真っ向勝負は誰にでも訪れるであろう事案である。同じ屋根の下で暮らす家族同士でさえ、お互いを分かりあえていないと言われる昨今において、「家族・親戚同士」「恋人同士」「友人間で意思の疎通」を図ることの難しさ、一方通行になりがちな関係性とその距離感を高齢化に伴う諸問題をストーリーとして取り上げながら、主題は「人間としての尊厳」「人格を否定され生きながらえている悲哀」を孫の目で問い、そして行動に移そうとする主人公の内面を見事に描いているところに著者・羽田氏ならではの作品の奥深さ、簡潔に見える描写とストーリーに隠れた深淵なるものを垣間見せてくれる。なかなかハードな短編でしたが著者の現代社会が抱える闇に挑んでいこうとする歯に衣着せぬ核心をつく言葉に「その通りだね」とスッキリしました。




羽田圭介(はだ けいすけ)
1985年東京都生まれ。明治大学商学部卒業。2003年「黒冷水」で第40回文藝賞受賞。

〈主な作品〉
「黒冷水」2003年文藝冬季号、単行本は03年河出書房新社刊。
『不思議の国のペニス』06年河出書房新社刊。
『「ワタクシハ」』11年講談社刊。
『隠し事』12年河出書房新社刊。
『メタモルフォシス』14年新潮社刊、他。

明治大学付属明治高等学校在学中の2003年、高校生と中学生の兄弟が憎み合い、「家庭内ストーキング」を繰り返すさまを独特の表現で描いた「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞。17歳での受賞は当時3人目で、最年少。応募する際、締切日ぎりぎりで投函した。

2006年受賞第一作「不思議の国のペニス」を『文藝』に発表。

2008年同誌に「走ル」を発表、今後は社会人生活と並行して執筆活動を続けるとコメントしている。芥川賞候補作となる。

2010年、第四作「ミート・ザ・ビート」で第142回芥川賞候補。2012年、「ワタクシハ」で第33回野間文芸新人賞候補。2013年、「盗まれた顔」で第16回大藪春彦賞候補。

2014年、「メタモルフォシス」で第151回芥川賞候補、第36回野間文芸新人賞候補。

2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞候補。同年7月16日、又吉直樹の『火花』と共に『スクラップ・アンド・ビルド』で 芥川賞 を受賞した。




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