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(第153回芥川賞受賞作品特集!⑤)夏の裁断/島本理生(著)

kage

2015/07/24 (Fri)

芥川賞153


芥川龍之介の名を記念して、直木賞と同時に昭和10年に制定された。

芥川賞…”純文学”を対象とした作品。

各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)に発表された純文学短編作品中最も優秀なるものに呈する賞。


■芥川賞選考委員
小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美(敬称略)



第153回芥川賞候補作
 夏の裁断(文學界6月号)/島本理生(著)

文學界2015年6月号/文藝春秋

¥970
Amazon.co.jp

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●内容紹介
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大した会話はしなかった。帝国ホテルの立食パーティでばったり顔を合わせたけれど、柴田さんはそらした。シャツの袖から白い手首が覗いていた。

とっさに握りしめたフォークは、刺さらなかった。彼の手首の表皮を破くことすらできず、赤く反応しただけだった。

柴田さんが振り返る。色素の薄い前髪から覗いた目は傷ついたように見開かれていた。被害者と加害者っておんなじだ、とぼんやり思った。まわりが取り乱したように駆けて来た。誰かがフォークをおそるおそる私の右手から抜き取り、パーティ会場から連れ出された。

(冒頭部分を抜粋)





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ヒロインがM女という括りや締めになっていないところがいい。

私小説風の書き方で「 夏の鎌倉、小説家と編集者、本を切る」

心に引っかかる人たちを描き出す力量はさすが!!


Arikaアイコン(小)1學界6月号の目次にはこう書かれている。

「俺とやりたい?」──悪魔のような男が私を翻弄する。新境地を開く一八○枚

従来と同じテーマを貫いた「イタくて重い恋愛もの!」の作品。

率直に感想を述べると、語り手=ヒロインが痛々しくて変!

そして、えっ!これって「私小説?!」という感じの中篇でした。 

個人的には本を裁断する際の心理描写が神がかっていると感じました。

今作の主人公・千紘のモデルは著者本人(主人公が作家、母子家庭などなど、他にもありますが…)ではと思わせるくらい主人公が男性編集者に翻弄され心が不安定になっていく。夏の鎌倉で祖父の遺した蔵書を電子化するために裁断する様子は、主人公の自傷的行為にも通ずる痛々しさがあります。作家にとって本はまさに『自分自身』であり、その本を裁断する自炊行為は今までの『自分を消す』意味合いも含まれているように思えて、なんだか痛々しさを感じてしまう。

正直読むのが辛かったです。 誘われて優しくされて、暴力的に出られると謝ってしまう千紘。思わせるだけ思わせて突き放す男に、振り回されても夢中になってしまう千紘。男の術中にはまっていくが、この男のずるいところは全然計算していないところ。そうされると気になってしょうがない、こういう人のいい女が少なからずいる。一方で自分のことが好きな男は飼い殺し。30過ぎて母の言いなり。隣のおばさんにもいいように使われている。いい加減受動的に生きるのはやめないか・・・。と主人公にイライライライラしながら読む状態は苦痛でした。彼女のトラウマは結局嘘なのか、本当なのか。女も男もどちらも心を病んでいて、救い出す言葉も浮かばない。 こういう弱くて優しい女性を描くのは、最近の島本作品の特長かなと思うので、そういう意味で、島本理生さんらしい作品でした。

まったく、著者が描く女性はどうしてこうも神様を求めるのだろう。どうしていつも、危険と救いの区別をつけられないのだろう。これはあくまでも個人の性の感覚なのだが、アンニュイ感じが好きな方はお好きかと思いますが、誘われて優しくされて、暴力的に出られると謝ってしまう千紘のM女的感覚は私の性とは合わず最後までそこの部分は共感は出来なかった。ただ、著者の作品には女性を興奮させるフェルモン的な何かを感じてしまう時がある。随所に島本氏のテーストが散りばめられていて、「アイスピックで心臓を刺されたような」という記述があるが、胸がいっぱいというよりも身体が髄が熱く火照るみたいなアンニュイな感覚…。なぜ、著者の文章を読むと共感は出来ないにも関わらずこうも心を揺さぶられ、ぎゅっと掴まれたように陥るのだろうか。女性作家が醸し出す危険な独特なフェルモンに女性読者である私は少なからず無意識反応してしまうということなのだろうか…。

高校生で芥川賞候補にノミネートされたから、早12年。彼女の作品は「よだかの恋」やアンソロジーの短篇など何作か読んできたが、根本にあるのは毎度同じテーマのように思える、また旧作にもっといいものがあるので、やや新鮮味を欠きましたが、文章のうまさ、心理描写の巧みさ、作品の「勁さ」は、今回の芥川賞6作品候補の中でも群を抜いていた。心に引っかかる人たちを描き出す力量に置いては誰よりもズバ抜けていた。だから、次回に期待したい。たまにはこういった女性の毒も孕んでるアンニュイな芥川賞も受賞してほしいと思っています。




島本理生(しまもと りお

1983年東京都板橋区生まれ。
都立新宿山吹高等学校に在学中の2001年に「シルエット」で、第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。
06年立教大学文学部日本文学科中退。
10年12月に作家・佐藤友哉と2度目の入籍。
11年に第1子を出産。

〈作品〉
「ヨル」1998年「鳩よ!」掌編小説コンクール第2期10月号当選、年間MVP受賞。
「シルエット」2001年群像6月号=第44回群像新人文学賞優秀作受賞。
「リトル・バイ・リトル」02年群像11月号=第128回芥川賞候補、単行本は03年講談社刊=第25回野間文芸新人賞受賞。
「生まれる森」03年群像10月号=第130回芥川賞候補。
『ナラタージュ』05年角川書店刊=第18回山本周五郎賞候補。
「大きな熊が来る前に、おやすみ。」06年新潮1月号=第135回芥川賞候補。
「Birthday」06年群像10月号=第33回川端康成賞候補。
『アンダスタンド・メイビー』10年中央公論新社刊=第145回直木三十五賞候補。
『Red』14年中央公論新社刊=第21回島清恋愛文学賞受賞、
他多数。


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