(小説で読み解く「女の一生」3⃣)「あのひとは蜘蛛を潰せない」「骨を彩る」彩瀬まる (著)

2016/06/12 (Sun)

女の生き方を題材にした注目作が、女性作家により近年多数刊行されている。
4つの側面に分けて、いま読むべき作家をご紹介。

3⃣少女はやがて大人になる
成長していく過程で、自分を見つめ直す。
歩みは遅くでも、少女は少しずつ大人になる。
内面の葛藤を確かな筆致で綴る・・・彩瀬まる
女による女のためのR-18文学賞出身の著者は、
人々の心に潜む自意識との葛藤や劣等感を誠実な目線で追い、
それと向き合う姿を誠実な筆致で浮き彫りにする。
その描写力に定評あり。
あのひとは蜘蛛を潰せない/彩瀬 まる

¥1,620
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私は子供だ。
身体と中身が一致しない、グロテスクなオトナコドモだ。

「女による女のためのR‐18文学賞」受賞第一作!
ずっと穏やかに暮らしてきた28歳の梨枝は地元のドラックストアで店長を務めている。幼い頃に両親が離婚し、兄は結婚したため、現在は母親と暮らしている。年下の恋人(勤務先のアルバイト大学生・三葉)が出来て一人暮らしを始めたことで、今まで自分を抑えつけてきた母親との関係を見直し、自分の劣等感とも向き合っていく。初めて自分で買ったカーテン、彼と食べるささやかな晩ごはん。なのに思いはすぐに溢れ、一人暮らしの小さな部屋をむしばんでいく。ひとりぼっちを抱えた人々の揺れ動きを繊細に描きだし、主人公の心を丁寧に深々と覗かせてもらった。 自分の悩みや気持ちを言葉にした時の上手く伝わらない……本当はそういうことが言いたいんじゃないのにってなるあの感じがすごくわかってむずがゆいかった。母親の呪縛。主人公、梨枝の生きづらさ。自信のなさ、とても共感した。みんな弱い部分と少しずつ戦いながら自分なりに蹴りおつけながら生きている。手探りの8歳の差のある二人の恋。年下の恋人だって20歳なりに「痛み」があった。お互いの痛みを共に超えていってほしい。不思議なもので案外時が解決していくものだ。すごく綺麗な文章で、これがデビュー作だなんてすごい。 なんといっても蜘蛛をつぶせない柳原さんが冒頭で姿消すのにタイトルでありテーマなのがいいです。ラストの風景描写もよかったです。
骨を彩る/幻冬舎

¥1,512
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喪失感を抱く人々を描いた連作短編集。妻を喪いた娘と二人で暮らす男が、いつの間にか心の中で少しずつ妻の存在が薄れていることに気づく巻頭の「指のたより」。最終章の「やわらかい骨」では、その娘の視点から、幼い頃に母親を喪った少女の心の揺れと成長を追う。登場する人たちは皆、心のどこかで骨がひっかかっているような、自分の骨が足りないような、何か不安定な喪失感を持っています。その喪失感は、不思議と読者にヒタヒタと浸透し、やがて「私には、ここに穴があったんだ」と、心の沁みのような喪失感を気付かせます。この物語は、読む人によって涙する場所が違う、不思議な物語です。ただ、読後に残るのは鮮やかな希望。注目の新鋭による希望の物語。 彩瀬まるという作家は、本当に心の襞に優しく触れてくる文章を書く人だと思う。そしてなによりもその独特で豊かな表現力…心に降り積もる言の葉の心地良さがこの人の最大の魅力だろうか。喜び、悲しみ、出逢いと別れ…人の心に刻まれる記憶を「骨のしみ」と捉える感性もそのひとつ、そしてそこから人と人との触れ合いによって単調な白と黒のモノトーンからカラフルな彩りを増していく発想など素敵。主人公たちは自分の中に重い気持ちを抱えているが、同時に他者の心にも寄り添おうとする。無理にでなく、日常を過ごす上で必要なだけの思いやりで。自分のなかにあるけど上手く表現できない感情がこの本に詰まっているようで、苦しくてでも少し温かい気持ちになるそんな読後感でした。
彩瀬 まる(あやせ まる)
日本の小説家。
千葉県千葉市生まれ。
上智大学文学部卒業。
小売会社勤務を経て、2010年「花に眩む」で第9回女による女のためのR-18文学賞読者賞を受賞。
☑著作
小説
・あのひとは蜘蛛を潰せない( 2013年3月 新潮社)
・骨を彩る(2013年11月 幻冬舎)
収録作品:指のたより / 古生代のバームロール / ばらばら / ハライソ / やわらかい骨
・神様のケーキを頬ばるまで(2014年2月 光文社 ISBN 978-4-33-492928-2)
収録作品:泥雪 / 七番目の神様 / 龍を見送る / 光る背中 / 塔は崩れ、食事は止まず
・桜の下で待っている(2015年3月 実業之日本社)
収録作品:モッコウバラのワンピース / からたち香る / 菜の花の家 / ハクモクレンが砕けるとき / 桜の下で待っている
・やがて海へと届く(2016年2月 講談社)
ノンフィクション
・暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出(2012年2月 新潮社)
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