(小説で読み解く「女の一生」3⃣)「自分を好きになる方法」本谷有希子(著)

2016/06/15 (Wed)

女の生き方を題材にした注目作が、女性作家により近年多数刊行されている。
4つの側面に分けて、いま読むべき作家をご紹介。

3⃣少女はやがて大人になる
成長していく過程で、自分を見つめ直す。
歩みは遅くでも、少女は少しずつ大人になる。
小説家ではなく、劇作家、演出家、女優、声優などの顔も兼ねる・・・本谷有希子
小説家ではなく劇作家、演出家、女優、声優としても、まさに華々しいばかりのキャリアと成功。
前作『嵐のピクニック』で大江健三郎賞を受賞、いま最も注目される新鋭女性作家!
編集者の間では、小説家としては「かなりメンドくさい」という評判も......。
自分を好きになる方法 (講談社文庫)/講談社

¥540
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あんまり強くても周りの人と上手くやっていけない!!
一人の女性の一生を、3歳、16歳、28歳、34歳、47歳、63歳のそれぞれ一日を描いた6編を連ねて構成する長編小説。いつか自分が心から一緒にいたいと思える相手に出会えることを夢見て生きる女性の人生を、「6日間」で鮮やかに切りとる。余白の存在感がすごい。文章には描かれていない何十年間の、いくつものものごとや感情だとか。作中、「こんなふうに知らない小道を発見して、幸せだと思えれば、他に何もいらないのかもしれないわね」というリンデの言葉が、そういう気持ちって私にもあるって一際しみた。摩擦を避けたいのにやってしまう婉曲な批難や、あえて相手の感情を煽る物言い。その嫌な感じも、身に覚えあります。自分に相応しいのはこの人たちではない、という厭世的な逃避行も。読み終えてしばらくは、どんよりした感情に支配された。人との関わりは行き違いばかりだし、自分も含め、みんな良いところも悪いところもある。それを受け入れて生きる47歳のリンデに訪れた一瞬の揺らぎ。落胆するのはときめきがあるから。そんな47歳の日々が印象的。そして63歳のリンデは一見孤独だけれど、もっと良きものになりたいという願いが見えて、こんな年の取り方も悪くないと思った。「自分を好きになる方法」。確かに、ここではない何処かを求めて呪詛するだけでは何も変わらない。人のふり見て我がふり直せ。前向きな気持ちにもなってきた。本谷版自己啓発本という側面も、あながち間違いじゃないのかも。
本谷 有希子(もとや ゆきこ)
1979年7月14日 誕生、石川県出身。
日本の劇作家、小説家。演出家、女優、声優なども兼ねる。
「劇団、本谷有希子」主宰。
☑経歴
1979年、石川県白山市に生まれる。中学生時代はソフトテニス部に所属し部長を務める。石川県立金沢錦丘高等学校時代に演劇部に所属。上京後、ENBUゼミナール演劇科に入学、松尾スズキのクラスに在籍する。在学中より主に舞台において女優活動を開始。
1998年、アニメ『彼氏彼女の事情』で声優デビュー。ENBUゼミを見学に来ていた監督の庵野秀明が、庵野を見て騒ぐ生徒たちの中で一人憮然とした態度を取っていた本谷を気に入ったためのオファーであった。このときの役は、「文化祭で上演する劇の台本を書く」少女の役であった。
2000年9月、「劇団、本谷有希子」を創立。劇作家・演出家としての活動を開始する。
2002年、『群像増刊エクスタス』に「江利子と絶対」を発表し小説家デビュー。サイトで連載していた小説を読んだ編集者が声をかけたことがきっかけとなった。
2005年4月から2006年3月までの1年間、ラジオ番組『本谷有希子のオールナイトニッポン』のパーソナリティを務めた。この番組がきっかけで彼女を知った人も多い。同年に、小説『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が第18回三島由紀夫賞候補となる。
2006年、小説『生きてるだけで、愛。』で第135回芥川龍之介賞候補となる。
2007年、『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少で受賞、小説『生きてるだけで、愛。』が第20回三島由紀夫賞候補となる。同年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が佐藤江梨子主演で映画化された。
2008年、小説『遭難、』で第21回三島由紀夫賞候補となる。
2009年、「幸せ最高ありがとうマジで!」で第53回岸田國士戯曲賞(白水社主催)を受賞。同年、「あの子の考えることは変」で第141回芥川賞候補となる。同年10月には雑誌『VOGUE』により、日本を代表する女性10人を選ぶ『ヴォーグ ニッポン ウィメン・オブ・ザ・イヤー2009』を受賞。
2011年、小説『ぬるい毒』で第24回三島由紀夫賞候補、第145回芥川賞候補、第33回野間文芸新人賞受賞。
2013年、小説『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞受賞。5月7日、シンガーソングライターで映画監督の御徒町凧と入籍。
2014年、小説『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞受賞。
2015年10月、第1子女児を出産[1]。
2016年、小説『異類婚姻譚』で第154回芥川龍之介賞受賞。笙野頼子、鹿島田真希に続いて3人目の純文学新人賞三冠作家となる。
☑受賞歴
2007年 - 第10回鶴屋南北戯曲賞(『遭難、』)
2009年 - 第53回岸田國士戯曲賞(『幸せ最高ありがとうマジで!』)
2011年 - 第33回野間文芸新人賞(『ぬるい毒』)
2013年 - 第7回大江健三郎賞(『嵐のピクニック』)
2014年 - 第27回三島由紀夫賞(『自分を好きになる方法』)
2016年 - 第154回芥川龍之介賞(『異類婚姻譚』)
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