≪文学世界、絢蘭たる悪㈠≫谷崎潤一郎犯罪小説集/谷崎潤一郎(著)

2016/12/09 (Fri)

谷崎潤一郎の没後51年目の2016年。
明治・大正・昭和の長きにわたる作家生活で、
数多くの傑作を生み出した文豪の魅力をひもとく21冊をご紹介。
耽美にして繊細、それが私が谷崎潤一郎に抱くイメージです。

文学世界、絢蘭たる悪㈠
谷崎潤一郎犯罪小説集 (集英社文庫 た 28-2)/集英社

¥518
Amazon.co.jp

日本における犯罪小説の原点 となる、知る人ぞ知る秀作4編
エドガー・アラン・ポーの小説に多大な影響を受けていることがうかがえる作品。偶然手にした暗号文は殺人の実行予告だった? どんでん返しのラストが待ち受けている「白昼鬼語」をはじめ、「柳湯の事件」「途上」「私」など、官能と耽美の趣向を凝らした犯罪小説4編を収録。特に「白昼鬼語」は、暗号をめぐる二人の男のやり取りや最後のどんでん返しの部分が、後の乱歩の「二銭銅貨」を彷彿とさせ、「D坂の殺人事件」に先駆けて異常性欲をテーマにしている点も興味深く感じる。「白昼鬼語」のラストの一文に思わず痺れた。
一貫して、戦前の探偵小説の独特の語り口や、雰囲気は共通したものがあるが、事件そのものよりも、それに拘わる人(主に犯人)の心理描写が秀逸。この時代の文学を読むと、マゾヒズム、サディズムは犯罪と紙一重であると感じざるを得ない。常人と狂人の間の、その程度は違うにしろ、誰にでもあるであろう偏った趣向、性癖を犯罪と絡めて描いていく描写は乱歩ほどエログロではないが、日常を逸脱した世界観に引き込まれる。気味悪さの中に在る美しさにうっとりする。谷崎に限らず少々昔の作品を読むと、人の思うところはいつの時代も変わることなく同じなのだと認識させられる。そんな谷崎流ミステリに江戸川乱歩が刺激を受けたというのも大きく頷ける。事件を解説している「私」が犯人だったり、物語の視点が一転、二転して迎える結末は流石である。現代犯罪小説にありがちなドンデン返しやトリックではなく、卓越した文章の力だけでどんどん話に引き込まれてゆくかんじが、とても心地よく刺激的である。不思議な世界観とも相俟って、狂人の克明な心情描写にごくりとなり、凄艶な妖婦にため息をつき、変態的偏執症に苦笑い。闘牛になって赤いマントを追うごとく夢中に推理してるとヒラリとかわされる。狂人、変態、欺き、犯罪などなど盛り込んでるのに、後をひくような暗さがない、この時代の文学って好きです。
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