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≪谷崎を取り巻くライバル❶≫田園の憂鬱/佐藤春夫 (著)

kage

2016/12/13 (Tue)

谷崎潤一郎の世界a

谷崎潤一郎の没後51年目の2016年。

明治・大正・昭和の長きにわたる作家生活で、

数多くの傑作を生み出した文豪の魅力をひもとく21冊をご紹介。

耽美にして繊細、それが私が谷崎潤一郎に抱くイメージです。

アイコンりす今回の書籍案内人・・・・Arika


谷崎を取り巻くライバル

 田園の憂鬱/佐藤春夫 (著)

田園の憂鬱 (新潮文庫)/新潮社

¥400
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Arikaアイコン(小)1青春と芸術の危機を語った不朽の名作、
むせ返るような田園の自然と、その中で深まる憂鬱がやがて狂気になる。

都会の喧噪から逃れ、草深い武蔵野の田舎に越してきた若い男が、愛人と二匹の犬、一匹の猫と暮らす日々を描いた浪漫派文学の名作。濃密な自然と絶え間なく降り続ける雨。遠く微かに響く夜の音。草木にあたる光と風の情景。夢現の境を漂う様なぼんやりとした記憶。狂気的な妄念。哀しい性。田園の憂鬱或いは病める薔薇。神経症な主人公に、耐える妻。若い男の憂鬱がキャンパスに滲む水彩絵の具の様に広がっていく。

のんびりとした美しい自然描写の作品かと思いきや、分裂病的な静かな狂気の書だった。ときに美しい情景が描かれるが、大半は、田舎暮らしの中で次第に精神を衰弱させ夢と現実の境目も怪しくなっていく作家の独白。ただ、耽美な散文に腰が抜けるくらい文章は例えようもない程美しかった。薔薇の紅は少年の唇の色に、蝉の翅は宝玉にたとえられるなど、美しいものはひたすらに美しく。おぞましいものは、読者の生理的嫌悪感をざわざわさせるほど、とことん厭な書き方をされているのがお見事でした。殊に蛾の描写が凄まじく気持ち悪くて、でもそれがまた良い。健気に寄り添う奥さんが涙ぐましいというか、その後どうしたか気になるところですね。

眈々と、美しい表現で、一人の若者の、憂鬱と狂気と現実と夢の狭間を描いた作品。短く、明確な筋もないながら、むわっと濃厚な匂いの漂ってくる作品だった。だんだんと一体どれが幻覚でどれが現実なのか、読んでいてわからなくなりそうになる。静かな狂気で怖いのに、どこか清くて硝子を通してその青年を見ている感覚になれるところが凄い。ある意味芸術とはこういうものだと、文章で表している様にも思う。ちなみに著者・佐藤春夫は、谷崎から最初の妻・千代を「譲られた」、大正文壇最大のスキャンダル「細君譲渡事件」の当事者である。



佐藤 春夫(さとう はる)
┣1892年(明治25年)4月9日 - 1964年(昭和39年)5月6日
┣近代日本の詩人・作家。艶美清朗な詩歌と倦怠・憂鬱の小説を軸に、文芸評論・随筆・童話・戯曲・評伝・和歌とその活動は多岐に及び、明治末期から昭和まで旺盛に活動した。筆名を潮鳴、沙塔子、雅号を能火野人と称した。
┣初代新宮市名誉市民。
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「細君譲渡事件」とは…
1915年(大正4年)、谷崎は石川千代子と結婚したが、1921年(大正10年)頃谷崎は千代子の妹・せい子(『痴人の愛』のモデル)に惹かれ、千代子夫人とは不仲となった。谷崎の友人・佐藤春夫は千代子の境遇に同情し、好意を寄せ、三角関係に陥り、谷崎が千代子を佐藤に譲ることになったが撤回するという「小田原事件」が起きた(佐藤の代表作の一つ『秋刀魚の歌』は千代子に寄せる心情を歌ったもの。また、佐藤は『この三つのもの』、谷崎は『神と人との間』を書いている)。

結局、1926年(大正15年)に佐藤と谷崎は和解、1930年(昭和5年)、千代子は谷崎と離婚し、佐藤と再婚した。このとき、3人連名の「・・・・・・我等三人はこの度合議をもって、千代は潤一郎と離別致し、春夫と結婚致す事と相成り、・・・・・・素より双方交際の儀は従前の通りにつき、右御諒承の上、一層の御厚誼を賜り度く、いずれ相当仲人を立て、御披露に及ぶべく候えども、取あえず寸楮を以て、御通知申し上げ候・・・・・・」との声明文を発表したことで「細君譲渡事件」として世の話題になった。
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