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第157回芥川賞受賞作品特集!

kage

2017/07/31 (Mon)

芥川賞157
平成29年/2017年上半期
└[ 対象期間 ]─平成28年/2016年12月1日~平成29年/2017年5月31日
平成29年/2017年7月19日決定発表

芥川龍之介の名を記念して、直木賞と同時に昭和10年に制定された。

芥川賞…”純文学”を対象とした作品。
各新聞・雑誌(同人雑誌を含む)に発表された純文学短編作品中最も優秀なるものに呈する賞。

純文学とは?…「芸術性」「形式」を重視!
純文学(じゅんぶんがく)は、大衆小説、あるいは小説一般に対して、商業性よりも「芸術性」・「形式」に重きを置いていると見られる小説を総称する、日本文学における用語。


■芥川賞選考委員
小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、村上龍、山田詠美、吉田修一(敬称略)

Arikaメダル1第157回芥川賞受賞
 影裏(えいり)/沼田真佑(著)

影裏 第157回芥川賞受賞

(『文學界』2017年5月号、文學界新人賞受賞作)(初)

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●内容紹介
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東日本大震災6年目だからこそ生まれた、繊細な喪失の物語。

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Arikaアイコン(小)1新人らしからぬ技巧的な芥川賞受賞作らしい作品。
樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す‼

デビュー作にして芥川賞を射止めた本作。自然の美と一瞬で消し去る震災を、淡々だが丁寧に描写した作品。主人公は30過ぎの男性。日浅という男性の同僚と仲良くするんですけど、ある日突然、日浅が会社を辞めて、怪しげな団体に就職して勧誘してきたりするようになって、それまでの関係が軋み始める。そのうち実は団体のノルマがこなせなくて汲々としているというのを聞いたところで震災が起きて、消息を絶ってしまう。彼を探すうちに、彼がイメージとは違う別の顔が見えてくる。結局なところ、人は自分にとって心地いいフィルターを通して周りの人を理解しているということなのかもしれません。主人公の目を通して友人の男の正体が明らかになる過程は面白かった。第153回、第155回とは異なり、鉛筆で輪郭を描くのではなく、輪郭の周辺を黒く塗りつぶして自然と輪郭を浮上させているかのような描かずして描く手法の芥川賞らしい作品。


■著者略歴■
沼田真佑(ぬまた・しんすけ)
1978年北海道小樽市生まれ。
西南学院大学卒業後、福岡市で塾講師を務める。
現在、岩手県盛岡市在住。
平成29年/2017年「影裏」で第122回文學界新人賞を受賞。

受賞歴・候補歴
第122回文學界新人賞(平成29年/2017年)「影裏」
第157回芥川賞(平成29年/2017年上期)「影裏」

受賞後のインタビューで沼田さんが「1本しか(小説を)書いてないっていうのがありますので、例えばジーパン1本しか持ってないのにベストジーニスト賞みたいな」とユーモアを交えたコメントをしたことも大きく報道されました。また、文學界新人賞とのダブル受賞は史上6人目、岩手県では初の芥川賞作家誕生となり、地元でも大きな話題となっているそうです。



第157回芥川賞 候補作品

 星の子/今村夏子(著)

星の子/朝日新聞出版

¥価格不明
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(『小説トリッパー』2017年春号)
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●内容紹介
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主人公ちひろは、出生直後から病弱だった。

両親は救いたい一心で、「あやしい宗教」の信仰にのめり込み、家族を崩壊させていく。

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Arikaアイコン(小)1怪しい宗教に歪められる家族の物語
主人公・林ちひろは中学3年生。出生直後から病弱の娘を案ずる一心で、新興宗教にのめり込んでいく両親。その両親を「アブナイ」人と思いつつも、自分のかけがえのない両親だという心情をもつ女の子、どちらも複雑だった。信じるものしかみようとしない盲目的な大人、世間も両親も宗教も客観的に視ることができる女の子、何か難しい。叔父たちが手を差し伸べても、両親のもとに残ろうとする、そしてラストでまた天の川のように両親に挟まれ、流れ星を同時に見ようとする、まるで幼子の頃と同じように……。ラストシーン、親子3人の会話が、とても怖い。流れ星は本当に見えたの?ぞわぞわぞわ。狂気か?安堵か?一体どちらなのか…? 

ただ、ラストシーンからは、両親の信仰への揺らぎが見て取れた。教会の未来を背負って立つ二人のいかがわしい噂、お父さんのくしゃみ…騙されたと思ってしまった瞬間、とても不幸になる気がする。愛に溢れた善意の人々が集まっているだけなのに、どうして悲しみや暴力が発生してしまうんだろう。だがそれでも子供にとっては、どんな親でもかけがえのない存在なのだ。不幸そうに見えても当人たちは案外のほほんと幸せにしていたり、恵まれていそうなのにそうでもなかったりといった当事者と第三者のズレに今更ながら気付かされたり、それがとてもフラットな視線で捉えられていて、その公正さには毎回敬服する。私は否定も肯定もしないが、信じる力は大事だけれど私はほどほどにそこそこでいいかな。やがてちひろは(失踪した姉のように)家を出るだろう。彼女は、そして私たちは、愛を求める人間の愚かさを許し続けることができるのだろうか。


■著者略歴■
今村夏子(いまむら・なつこ)
1980年広島県広島市安佐南区生まれ。
2010年「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞。
「こちらあみ子」と改題、同作と新作中短編「ピクニック」を収めた「こちらあみ子」で2011年に三島由紀夫賞受賞。

受賞歴・候補歴
第26回太宰治賞(平成22年/2010年)「あたらしい娘」
第24回三島由紀夫賞(平成22年/2010年度)『こちらあみ子』
|候補| 第155回芥川賞(平成28年/2016年上期)「あひる」
第5回河合隼雄物語賞(平成29年/2017年)『あひる』
|候補| 第157回芥川賞(平成29年/2017年上期)「星の子」

今村夏子さんの新刊『星の子』は「小説トリッパー」掲載直後から大きな反響を呼んだ話題の一冊。
これまでに発表された単行本は『こちらあみ子』(三島由紀夫賞受賞)、 『あひる』(芥川賞候補、河合隼雄物語賞受賞)の2作だけという寡作ながら、作品を発表するごとにファンを増やし続けている今村さんの、最新作にして最長編作です。




 真ん中の子どもたち/温又柔(著)

真ん中の子どもたち/集英社

¥価格不明
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(『すばる』2017年4月号)
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●内容紹介
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台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、日本で育った琴子、同じく台湾人・日本人のハーフである嘉玲、両親とも中国人で日本で生まれ育った舜哉。

上海の語学学校で出会った3人は悩みながら友情を深めていく。

日本、台湾、中国という三つの国の間で、自らのアイデンティティを探し求める若者たちの姿を描く青春小説。

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Arikaアイコン(小)1四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。
『すばる』4月号掲載の本作は、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『台湾生まれ 日本語育ち』の小説版というべき作品である。日本人の父親と台湾人の母親のもとに生まれ、日本で育った十九歳の「私」=天原(てぃえんゆぇん)琴子は、中国語を勉強するために上海へと旅立つ。彼女は語学の専門学校である漢語学院で、台湾人の父親と日本人の母親を持つ呉嘉玲(うー・じゃーりん)と出会い、お互いを〓〓(ミーミー)、玲玲(リンリン)と呼び合う仲になる。小説は「私」たちの一年間の漢語学院での日々を物語ることで、日本、台湾、中国という三つの「国」の「真ん中」で、言語とアイデンティティーが複雑に絡まり合った境遇を否応(いやおう)無しに生きる「子どもたち」の姿を繊細かつ鮮やかに描き出す青春小説。

移民国家になることを拒み続けている日本だが、移民の数も国際結婚もこれからどんどん増えていくだろう。安易に「何人」と聞いて答えられるものだという思考はそろそろ終わりにしなければいけない。精読してみれば至るところに散りばめられた文化と言語と民族を問う問題、私小説としての主人公の感情描写、文芸としての価値ある部分は多分に存在していると思う。何人の定義は国籍に重きを置いているが、その外見や言葉、文化、いろいろな部分で私たちのアイデンティティは支えられている。簡略化するのも処世術だが、あくまで皆等しく複雑であること、適切な使い分けが生きやすくすることを忘れないでいたい。「母親から受け継いだ言葉」と形容されがちな「母語」は、本当に一つなのか。答えも提示される。一つではない。「母語」とはなにか、「国境」とはなにか、三人はそれぞれ悩みながら友情を深めていく。思春期に近い不安定な状態と彼女たちのベースへの不安定な気持ちが重なって、考えさせられる作品でした。


■著者略歴■
温又柔 おん・ゆうじゅう
1980年台湾・台北市生まれ。
3歳の時に家族と東京に引っ越し、台湾語混じりの中国語を話す両親のもとで育つ。
法政大学大学院国際文化専攻修士課程修了。
平成21年/2009年「好去好来歌」で第33回すばる文学賞佳作を受賞。

受賞歴・候補歴
第33回すばる文学賞[佳作](平成21年/2009年)「好去好来歌」
第64回日本エッセイスト・クラブ賞(平成29年/2017年)『台湾生まれ 日本語育ち』
|候補| 第157回芥川賞(平成29年/2017年上期)「真ん中の子どもたち」




 四時過ぎの船/古川真人(著)

四時過ぎの船/新潮社

¥価格不明
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(『新潮』2017年6月号)

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●内容紹介
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島の漁村を出て盲目の兄と暮す稔。

今後の生き方に迷う稔の胸に甦る祖母の言葉とは――

芥川賞候補作「縫わんばならん」に続く中編。

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Arikaアイコン(小)1青年は全盲の兄を支えながら、自身の生に迷う。
認知症の祖母が青年に伝えた最期の願いとは?

新潮6月号に新潮新人賞受賞後の第一作目として掲載。つまり彼にとっては世に出る第二作目である。「ノートを机の上に見つけた吉川佐恵子は、何もかもを思い出した。」という書き出しから始まり、島の古い家で暮らす佐恵子の、不明瞭な記憶、次々に移ろっていく回想、曖昧でぼやけているような佐恵子の意識を、精緻に描いている。孤島に暮らす佐恵子とその家族の話であるが、孤島という風景、佐恵子の認知症、そして二層構造で進んでいく文章構成が佐恵子の孤独をより鮮明に浮き彫りにしており、緊張感の走る作品。

キーパーソンの稔が家族のつながりを実感したところで、二層に分離されていた物語が帰結する技法は中々のものである。認知症の祖母がいた時期と現在の孫の重なりが優しく書かれていて面白かった。幼なじみの赤ン坊とその祖父の対比もまた生々しく、切なかった。盲目の兄を持つ無職の弟と認知症を患った祖母。時を隔てた二人の思念と回想とが、その縁を重ねながら往還して語られる。題材も、複数の人物と時間とを行き来する描き方もたいへん現代的。佐恵子が「思い出す」ことと再び「忘れること」の繰り返しから描かれる冒頭がとても印象に残る。

四時過ぎの船で着く稔と、四時過ぎの船で行く稔。時の隔たりがあるにもかかわらず、過去と現在が自然に行き来する。時の隔て、病気が人生そのものへ写し出される時間と困難に感じた。介護に対する問題の捉え方はどうであれ、それらの本質に迫るような人物の描きかたは少し感銘を受けた。7月31日発売の文庫なので、まだ自分の中でもうまく消化しきれていないものの、前作よりも圧倒的に読みやすいですよ。これが面白いと思ったら前作「縫わんばならん」も読んでみるといいかも。


■著者略歴■
古川真人(ふるかわ・まこと)
1988年7月福岡県福岡市生まれ/神奈川横浜市在住。
國學院大学文学部中退。
平成28年/2016年「縫わんばならん」で第48回新潮新人賞を受賞。
2017年同作が第156回芥川龍之介賞候補に、「四時過ぎの船」が、第157回芥川賞候補となる。

受賞歴・候補歴
第48回新潮新人賞(平成28年/2016年)「縫わんばならん」
|候補| 第156回芥川賞(平成28年/2016年下期)「縫わんばならん」
|候補| 第157回芥川賞(平成29年/2017年上期)「四時過ぎの船」

「縫わんばならん」で新潮新人賞を受賞した古川真人だが、芥川賞選考でも、退屈さを指摘する声はあったようだ。だが、一方で称賛する声もなかなかの音量で上がっていた。特に星野智幸氏、桐野夏生氏は絶賛だったようです。
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