(近代日本の戦術家⑥)異形の将軍―田中角栄の生涯〈上・下〉/津本陽(著)

2018/03/23 (Fri)

2014年NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』の影響で、
当時、書店にも軍師ブームが到来!
戦国乱世に活躍した天才軍師から、近代日本の偉大なる参謀まで。
彼らの優れた頭脳と魅力的な人物像に迫ります。

肝の座った指揮官と戦略家
近代日本の戦術家

田中角栄は、大正七年に新潟県刈羽郡二田村(現・西山町)に生まれた。吃音に苦しむ少年時代、軍隊で苛められる青年時代をおくるが、二十八歳で国政の舞台に登場するとたちまち頭角を現し、やがて小学校卒の革命的政治家として永田町に君臨する。三十年以上にわたり日本を支配する道路特定財源などの戦後システムはいかにつくり上げられたのか。

炭管疑獄事件で法務政務次官を辞任した角栄は、その時すでに党内の地歩を固めていた。やがて池田勇人を大蔵大臣に推し、再び政界の中枢へと昇りつめてゆく。カネと女、権力を高らかに肯定し、高度成長を演出した情念の宰相の人間力、その権謀術数。小泉政権が打ち倒そうとする巨大な幻影の源とは何か?戦後最大の栄光と汚辱を描いた一大叙事詩。

歴史小説家が、生い立ちから死ぬまでの軌跡を丹念に辿っていく!?
ロッキード事件の印象が強い田中角栄。だが反面、日中国交正常化を実現させ、高度成長期を演出した稀代の政治家でもあった。あの田中角栄も選挙出立ての頃は喋りが上手くなかったこと、東京出てから職を転々としてるのは意外。あと土建屋だった角栄が越後交通を持つことになったいきさつなどがわかったのは良かった。しかしなかなかロッキード以前から結構えぐいことをやっているのね。抜群の記憶力と人の心をつかむ上手さは凄いの一言。後藤田正晴氏が、歴代総理を評価したとき、田中角栄は特別の大器、異能であったと語っていた。彼の中に”異形の将軍”の姿を見た歴史小説家が、生い立ちから死ぬまでの軌跡を丹念に辿っていく。様々な資料を使い、金権政治家を暴くというより、人間としてどうなのかを明らかにしようとした。
田中 角栄(たなか かくえい)
1918年(大正7年)5月4日 - 1993年(平成5年)12月16日(75歳没)
新潟県刈羽郡二田村出身。
日本の政治家、建築士。
衆議院議員(16期)、郵政大臣(第12代)、大蔵大臣(第67・68・69代)、通商産業大臣(第33代)、内閣総理大臣(第64・65代)等を歴任した。
津本 陽
┣1929年(昭和4年)3月23日、和歌山県和歌山市出身。
┣題材は主に剣豪や戦国大名、幕末英傑を主題にした歴史小説が多い。撃剣興行を描いた『明治撃剣会』を始めとする剣豪小説で人気を得る。剣道三段、抜刀道五段の腕前を持ち、武道への造詣が深く、剣豪だけの持つ高い境地や剣技の精密な描写をすることに長じる。戦国時代の塚原卜伝、柳生新陰流の柳生兵庫助、示現流の創始者東郷重位、江戸時代後期の北辰一刀流の千葉周作らの伝記小説において活写されている。

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田中角栄の人間味を描くイントロダクション的一冊
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日本の政治家らしいといえば、田中角栄である。彼の築いた一時の繁栄は、地方利便性の向上といえる正の遺産と、権益の享受によってしか生きられない多くの寄生虫といった負の遺産を生み出したのではないでしょうか。
上巻は人生の前半部分を中心に描かれているため、苦労人の立志伝のよう。公正な扱いを求め衝突を繰り返すエピソード、金に対する嗅覚の鋭さを示すエピソード、人の心を捉える方法を学ぶエピソードなどから、後の角栄のスタイルを形作ったものを窺わせる。しかし、まだ何が”異形”なのかは分からない。上巻で見えたのは、角栄の人たらし術の根本が、”金を遣る”であること。これをやり過ぎたってことか。
下巻は角栄の後半生。政局でしか政治家を語れない既成メディアと異なり、角栄の立法、外交、選挙をじっくり読めて満足。また、その特異なキャラクターの背景にバセドー病や躁鬱病の存在を知り、驚きつつも納得した。さて、角栄の”異形さ”とは何だったのだろう。官僚への細やかな気遣い、選挙民からの支持、政治家の面倒見の良さ、これらのプラス評価はみんな利益供与だったのだ。角栄が日本人を拝金主義に変えたのか。拝金主義の日本人が角栄を利用したのか。坂道を転げ落ちるがごとく、という言葉がまさにぴったりな角栄の後半生は、寂しいですね。外交、内政そして家庭も四面楚歌。子飼いの政治家も結局は権力に群がってきただけ。孤独を酒を紛らわす日々では病気にもなります。
田中角栄に対する評価はたくさんあるが、よくも悪くもスケールの大きく物凄く優秀な人。義理人情にも厚く、弱者の味方、公約は守るなど政治家としてだけではなく、一人の人間としても魅力的な人だったのだろうと思う。その「ブルドーザーつきのコンピュータ」と言われた頭脳に相応しい合理的な考えを、ついぞ持てなかった。そのことが彼を権力の頂点まで押し上げたし、そこから引きずり下ろされる原因も作った。ただ、よくも悪くも目立ちすぎた、金にまつわる事が多すぎた、清廉潔白を求める日本では、叩かれたのかなと思う。
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